カツ丼小僧と今井優子、志茂田景樹の3人は、
いつもの座談会の部屋と同じ階にあり、
そこから少し離れた秘密の隠れ部屋に集っていた。
3人は、やや神妙な顔をしていた、………
一体、ここで何を、おっ始めようというのだろうか、………?
カツ丼小僧
「優子ちゃんに、景樹さん、………今日は、どうもありがとう、………。
お2人には、是非とも、僕の研究に協力してもらいたくて、
今日、わざわざ、ここにお呼びしたんですけど、……… 」
今井優子
「なにか、偉大な発明品を作って、
世界をアッと言わせたいとか言ってましたけど、………。」
カツ丼小僧
「うん、……… 」
志茂田景樹
「あ、……でも、ちょっと、その前に、………
また、冷えた缶チューハイを飲みたくなってきたな、………
冷蔵庫、いいかな、………? 」
カツ丼小僧
「ええ、……どうぞ、どうぞ、……… 志茂田博士、………
好きなだけ取って、お飲みになってください、………
今日は、おつまみに、チーズかまぼこも用意しておきました、……… 」
志茂田景樹
「志茂田博士か、……… うん、いいね、………
僕は、職業柄、先生とは呼ばれるけど、博士と呼ばれるのは初めてだ、………。
先生とは違った風雅な趣があるね、………。うん、いいね、………。」
志茂田景樹は、そう言って、部屋の片隅にある小型の冷蔵庫から、
白ぶどうチューハイとチーズかまぼこを取り出し、まずは、
白ぶどうチューハイの方を、ゴクゴクと飲み干した、………
志茂田景樹
「ふひぃぃ~~~~~~~~~~っ、………
うん、いいね、……これで、一息つくと、頭が冴えわたって、
気分も落ち着くんだ、………でも飲み過ぎはいけないよ、………
飲み過ぎは却って逆効果だ、………
ここのところの見極めを、ハッキリしなくちゃいけない、………
それが人生の分疑点というものだ、……… うん、……… 」
志茂田景樹は、そう言って、今度は、おつまみのチーズかまぼこを、
さも美味しそうに、クチャクチャと舌を鳴らして食べ始めた。
志茂田景樹
「うん、……これはうまい、………チーズがこってりしていて、
かまぼこと僕の舌との絡みが、いい三角の三つ巴関係を織り成している、………
舌を丸めて、包み込むようにして、少しづつチーズを溶かしながら食べるんだ、………
こんなものだって、ちょっとした創意工夫によって、美味くなったり、
そうでなくなったりするんだ、………
この事実を、市川海老蔵さんが知ったら、何というだろう、………?
それなら俺にやらせてみろっ、てか、………? ふひはひはひは、………。」
今井優子
「あのう、……… 発明品の話、……… 」
カツ丼小僧
「うん、……実はね、………
僕の父親は、かつては弁理士という職業についていてね、………
特許申請の仕事をしていたんだ、………今はもう齢でやめちゃったんだけど、………
だから、これも何かの運命のように思われるんだ、………
きっと、神のお導きやご加護があるに違いない、………
神のバックアップを信じて、大きな発明品作りに挑戦してみよう。」
志茂田景樹
「ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ、………
はぁぁ~~~~~~~~~っ、 うめぇぇ~~~~~~~~~~っ、
白ぶどうチューハイ、………これ以上の発明品がどこにあるっ、?………
くやしかったら、かかってこいってんだ、………
バ、バ、バ、カ、………ヤローーーッ、……… うい~~~~~くっ、」
カツ丼小僧
「あ、あ、あ、………は、博士、………
ダメですよ、………飲み過ぎはいけません、………
今言ったばかりだというのに、……… もうお酒はだめです、………
暫くの間、冷たい水でも飲んでいてください、………
こんなんじゃ、話になりませんよ、………。」
カツ丼小僧は、志茂田景樹から、缶チューハイを取り上げ、
代わりに、ナチュラルウォーターの入ったペットボトルを手渡した。
志茂田景樹は申し訳なさそうに、缶チューハイの容器を捨てて、
今度は、ペットボトルの水を、ゴクゴクと飲み干した、………
カツ丼小僧
「博士も、さっきチーズかまぼこの食べ方の事なんかを言っていたけど、
………そうなんだ、………
ちょっとした創意工夫によって、全てが変ってしまう事だってある、………。
例えば、ヤクルトね、………
あれね、………どうしてあんなに甘くておいしく感じるかというとね、
やはり、あの小さなプラスチック製の容器に入っているからですよ、………
ためしに実験で、何本かのヤクルトを、一個のガラスのコップに移しかえて
まとめて、ゴクゴクと飲んでみた事があるんだけど、味が変わってしまっていて、
あまり美味しくない、………のっぺらとしていて、甘さを感じなくなるんだ。
つまり、小さな容器だと、舌の先に、チビチビと感じながら少しづつ
飲んでいくから、美味しく感じるんだと思う、………。
舌先の部分というのは、特に甘さを感じる部分だからね、……… 」
今井優子
「でも、電子科学や薬品の知識もない私たちが、一体どうやって、
発明品なんかを生み出せるというのかしらね、………?
それとも、何か別の違った方法で、作るということですか、………?
あの、占いの法則で、………? 」
カツ丼小僧
「うん、………
数や、字形や、音の法則というのは、確かにあるんだ、………
この世のあらゆるものは、数や、字形や、音によって構成されている、………。
それだけは、僕の今までの研究によって明らかなんだ、………
名前を変えて、「その名前は自分なんだ」と念じ続けると、
本当にそうなっていく、………
自分がこうなろうと、意識しなくとも、自然とそうなっていく、………
少なくとも自分から、その名前が離れていってしまう間はね、………
目に見えやすくハッキリとしている事でいえば、
「筆跡」というものがあるでしょう、………
名前を変えると、筆跡はガラリと変わってしまう事がある、………
僕も、何度も経験しているけど、まったく違う筆跡になる、………
それから絵の「画風」、………
それも名前を変えて、その名前を念じ続けると、まったく変わってしまう、………
例えば、故人なんですが、漫画家の石ノ森章太郎さん、………
旧ペンネームは、「石森章太郎」なんだけど、1984年に、
自分の身の周りに、あまりによくない事が続くので、
名前を、石森章太郎から石ノ森章太郎に変えたのですが、
その頃から、漫画の絵柄も少しづつ変わって来ていて、
以前の切れ味鋭いタッチから、フンニャリしたような、
柔らかなタッチに変わっていったんですよ、………。
まぁ、2つの絵柄を見比べてみて、一応は、同じ人が書いたんだな、
ということは、なんとかわかりますけど、やはり大きく違っている、………。
それから、江戸時代後期の天才浮世絵師、葛飾北斎も、一生の内で、
数十回も名前を変えていますが、この法則を知っていたのでしょうか、………? 」
志茂田景樹
「うん、………
あんた、いつも、文字や音には霊が宿っていて、生命を持っているんだと
言ってるけど、つまり、あんたの発明づくりの骨幹というのは、そこんとこなんだな。」
カツ丼小僧
「ええ、……そうです、………
そして、それは、何も名前だけではないんです、………。
名称や職業名、渾名などにも言えます。
志茂田さん、………僕は先程、あなたの事を、「博士」とお呼びしましたけど、
「博士」という文字には、実際の博士に似つかわしい成分が、その名前の中に
潜んでいるからこそ、「博士」なんです、………。
博士という称号は、「博士」という文字の内容そのものなんです、………。
ですから、志茂田さん、………
これからは、自分の事を「超天才博士」と思い込んでください、………
思い込む、というのは、もちろん、自分が超天才博士になって、偉大な発明品を作り、
大衆から騒がれている事をイメージすることも、大切なんですが、
その前に、文字というのは、それをそのまま表現している絶対のものなんだ、
と思い込んで、自分イコール、「超天才博士」と頭の中で念じ続けてください。 」
志茂田景樹
「文字を念じるって、どういう事、………?
つまり、その「超天才博士」という名称を、文字の面からも、音の面からも、
頭の中に、刻み付けるという事かな、………? 」
カツ丼小僧
「ええ、そうです、………
しかも、それを執拗にやってください、………
とにかく、しつこく、粘り強くやっていく事が重要なんです、………。
自分の頭の中に「超天才博士」という文字のテロップを思い浮かべ、
俺は、この文字の通りの人間なんだと、……この文字通りになるんだと、………
寝ても覚めても、そればかり考え続けるんです。」
志茂田景樹
「でも、もしかすると、君のいつも言っている通り、その名称の中に、
悪い凶星や、凶数が潜んでいるかもしれないよ、………それでもいいの、………? 」
カツ丼小僧
「ええ、……構いません、………
こういう場合は、何よりも言葉の意味が重要なんです、………
それに、これもいつも言っている事なんですが、
凶数だから、なにもかも全てが悪いだとか、吉数だから、安泰だとか、
そんな事は、まったくありませんよ、………
それは、ケースバイケースだったり、就いた職業や、他人との相性などでも、
変化してくる訳ですから、あまりこだわることもありません、………
文字の意味を最優先してください、………。」
今井優子
「そう言えば、「博士」という文字の「士」は、「さむらい」だから、
カツ丼小僧さんの言っている、紫微斗数占いの「天機星(てんきせい)」が
ついているわ、………。志茂田さんの、「志」にもついてる、………。」
カツ丼小僧
「そうなんです、………
天機星は、「研究・学問」などを司る、実に頭のいい星です、………。
あと「博識」や「博学」の「博」、ですが、………
左側の「十(じゅう)」は、「芸術・不満」を表す「傷官星(しょうかんせい)」、
右側の「一(いつ)」の部分は、「内気・平凡」の「収星(しゅうせい)」、………
「田(たへん)」は、「風流・偏屈」の「偏印星(へんいんせい)」、
「、(てん)」は、「芸術・不満」の「傷官星」、
最後の「寸(すん)」は、「助力・引立」を得やすい「右弼星(うひつせい)」、です。
こういったもろもろの星が交差し合い、一つの言葉を、構成しているのですが、
「博士」というイメージを想像してごらんなさい、………
漫画や小説、ドラマなどにも出てくる、「博士」のイメージ、………
何か、今言った、言葉通りになっていませんか、?
ただ、画数的には、15画、文字数は、2ですので、
いくらかは、温厚でおとなしいイメージも加わります。 」
今井優子
「では、「音」の方は、どうなるんです、………?
それも、あるんですよね、………。 」
カツ丼小僧
「うん、………
もちろん、音の方もあって、それも、とっても重要なんだけど、
今は、字形や文字の観点からのみにしたいんだ、………
頭の中が、こんがらがって、わかりづらくなるからね、………
もうしばらくして、少し落ち着いて来たら、「音」の方の講義もするつもりです。」
志茂田景樹
「つまり、僕は、ただひたすら、「超天才博士」という単語を、
字形の面からも、音の面からも、繰り返し思い浮かべればいいってことなのね、? 」
カツ丼小僧
「ええ、……そうです、………
その単語イコール、自分そのものなんだと、自分に言い聞かせるようにして、
ただ、ひたすら、思い浮かべてください、………
そして、その言葉を自分の名称だとも、思い込んでください。
自分は、まさに、そういう人間なんだと、自分で定義づけるのです、………。 」
志茂田景樹
「つまり、………平たく言えば、………
形から入る、………言葉から入るって言う事ですね、………。」
カツ丼小僧
「うん、……そう、………
自分の名前通りに、自分が形成されて行くのは、実は、自分が、その名前を
普段から、「その名前イコール自分」と思い込んでいるからなんだ、………
思い込むと、その通りにそうなってしまう、………
それと同じ道理で、「名称」だとか「職業名」にも、その法則が適応する筈だから、
それを念じ続ければ、段々とそのように、……… 」
今井優子
「でも、そんなにうまい具合に、いくんでしょうかね、………? 」
カツ丼小僧
「うん、……それもまた、名前同様、………
もし、その名称が、本人に適応していないのなら、
名称の方から、その人間を離れていきます、………短期間の内に、………。」
志茂田景樹
「ようし、………
こうなったら、何が何でも俺、「超天才博士」になってやるっ、………
必ず、この栄誉ある称号を手に入れ、自分のものとしてやるぞっ、……… 」
カツ丼小僧
「おめでとうございます、………志茂田博士、……… 」
今井優子
「志茂田景樹、超天才博士、………。」