32歳になって、まぁ、平成8年の時なんですけど、今度は競馬よりも、
むしろ、競艇、競輪の虜になって、はまり過ぎちゃって、36歳まで、
狂うようにやっていました、
初めて、平和島競艇場に足を踏み入れた時の感慨は今でも忘れられません、
よっぽど、時間が空いていたんだね、小人閑居して、なんとやらってやつだね、
ええ、ちょうどその年から、今まで漫画の原稿を出版社に持ち込んで、
編集者に見て貰っていたのをやめたんです、だから、余計に暇を持て余して、………
それで、戦績の方は……… 如何に?
ええ、最初の内は、まぁ、なんとか、トントンだったんですが、
やっぱり、回数を重ねる内に、段々と負けが込んでいき、
最後は百戦百敗、という感じでした、
わはははは、でもさ、そんなんじゃ、借金で火だるま状態になったんじゃないの?
いえ、僕、とっても気が小さいもんで、人に借金するのは絶対に嫌なんです、
親には甘えていましたが、他人には甘えられません、………
というよりも、他人は甘えさせてくれません、
五千円でも、一万円でも、他人からお金を借りるのが嫌なタイプなんです、
だって、他人から金を借りている状態って、
その間、凄く憂鬱な気分でいなければならないじゃないですか、それが嫌なんです、
じゃぁ、親に援助して貰っていた、その範囲内でやっていた、という訳だな、
お前、親に幾らぐらい貰っていたんだよ、
週に4万円です、親の懐具合が悪い時には、週3万円、なんて時もありましたが、………
じゃあ、生活費を除くと、1~2万、残るとして、
その中で、やっていたという訳か、……… どういう賭け方をしていたんだ?
まず、入って1回目のレースは、200円で、3点買いで、600円ぐらいでやります、
それで、少しづつ賭け金を増やして行き、最後の7,8レースめ辺りで、
一気に5千円ぐらいでやるんですが、その最後のレースに行きつくまでに、
1レースも当てる事が出来なかった場合は、
最後のレースで、それ程大きく賭ける事はしない、と決めていたんですが、………
が………?
ええ、そうなんです、意志が弱いもんで、やはり誘惑に負けて、
最後のレースで、有り金を、殆ど全部賭けてしまう事が多かったんです、
それで、ドーーン、と、競艇ボートに撃沈された、という訳なんだな、………
ええ、そうです、でも、自分で働いた金でやっている訳でもないのに、
生意気な事を言うようですが、なんかね、チビチビした金を持って行って、
チビチビした賭け方をしていたもんですから、賭けていても爽快感がないんですよ、
それに、江戸川競艇に行った場合なんか、
往復の足代だけでも、中々バカになりませんからね、
でも、そんな事まで気にしながらやっていたって、面白くないですよ、
いつか、一度でいいから、競馬場や競艇場に、10万円ぐらい持っていって、
損しても構わないから、思いっ切り、ドバーーーッ、と、賭けて見たいですよ、
そんな事が、当たり前のように出来たら、きっと気分爽快でしょうねぇ、………
そうだ、巨泉さん、今度、いつか機会があったら、僕と一緒に競馬場に行って、
大賭けして遊んでみませんか? 楽しみにしています、
おいおい、お前と一緒に行くと、
なんか、こっちの運まで、吸い取られそうな気がするよ、
ちょっと、ご遠慮したいね、………